食中毒病因物質の代表的なものをご紹介します。どんな食品に生息し、どんな症状を発症させるのか、それぞれの菌の特徴を知りましょう。
2025.06.04
主に知っておきたい食中毒の違い
「感染型」と「毒素型」
食中毒菌に汚染された食品を食べることで発症する食中毒を、細菌性食中毒と言いますが、発症の機序の違いによって「感染型」と「毒素型」に分類されます。
「感染型」は、食品内で一定菌数以上に増殖した原因菌を摂取し、腸管内で感染することによって発症します。
「毒素型」は、食品内で原因菌が増殖する際に毒素を産生し、その毒素を食品とともに摂取することによって発症します
また、摂取した菌が腸管内で増殖する際に毒素を産生し、その毒素が原因で発症するタイプ(ウエルシュ菌や腸管出血性大腸菌)を「生体内毒素型」と分類する場合もあります。
◆ 感染型
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潜伏場所 | 主に牛の腸内に生息 | 豚・牛・鶏の腸内に生息 | 人や家畜の腸内、河川・下水などに広く生息。 ネズミ・ハエ・ゴキブリや、犬・猫・カメなどのペットからの感染に要注意。 |
原因食品 | 牛の糞便によって汚染された食肉やその加工品・井戸水など | 食肉やその加工品。(特に鶏肉の汚染率が高い)井戸水などの飲用水 | 牛・豚・鶏などの食肉。卵。二次汚染された食品。 |
菌の特徴 | ●わずか100個程度の菌数でも感染する。 ●ベロ毒素という強力な毒素をつくる。 ●O157、O111、O26など多くの血清型が存在する。 |
●少量の菌で感染し、犬・猫などのペットの糞便で感染することもある。 ●微好気性(わずかな酸素があるところで増殖する性質) |
●少量の菌でも感染する場合がある。 ●乾燥に強い性質がある。 |
潜伏期間 | 1~14日 | 1~7日 | 12~48時間 |
症 状 | ●発熱・激しい腹痛・水溶性の下痢・血便・吐き気・嘔吐など。 ●初期症状が風邪に似ているため、見過ごしやすいので手遅れに要注意。(特に乳幼児や小児、高齢者が感染すると、溶血性尿毒症症候群〈HUS〉などの合併症を起こし、死に至る場合もある) |
●発熱・頭痛・倦怠感・下痢・腹痛など。 ●まれに、ギラン・バレー症候群(手足・顔面神経の麻痺、呼吸困難等を起こす)を発症する場合がある。 |
●下痢、腹痛、嘔吐、発熱など。やや高い熱(38~40℃)が出るのが特徴のひとつ。 ●長期にわたり保菌者となることもある。 |
対抗手段 | ●食品の加熱処理。特に肉類は中心部まで十分に加熱調理(75℃で1分間以上)し、生肉は食べない。 ●加熱せずに食べる野菜は特によく洗浄する。 ●井戸水の定期的な水質検査。 |
●肉類は十分に加熱調理(中心部を75℃で1分間以上)し、生肉は食べない。 ●ニ次汚染の防止。(生肉と他の食品の直接、間接的接触を徹底して避ける) ●調理器具は洗浄・除菌後、よく乾燥させる。 |
●肉類や卵は十分に加熱調理する。(中心部を75℃で1分間以上) ●二次汚染の防止。(生肉や生卵を扱った器具、容器、手指はそのつど洗浄・除菌・消毒する) |
◆ 毒素型
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潜伏場所 | 人や動物の傷口(特に化膿しているもの)・のど・鼻腔・皮ふなどに広く生息。(健康者の保菌率は約40%といわれている) | 河川や土の中など自然界に広く分布。 | 土の中に広く分布。海や湖の泥の中にも分布。 |
原因食品 | おにぎり・弁当・サンドイッチ・ケーキなどの手作り食品。ほとんどの場合、調理する人の手を介して食品が菌に汚染されることが多い。 | 米・小麦・豆・野菜などの農作物を原料とする食品。主なものに焼飯・ピラフ・スパゲティー・焼きそばなど。 | ハム・ソーセージ・野菜・果物の瓶詰・缶詰・真空パック食品など。 |
菌の特徴 | ●汚染された食品中で増殖するとき、熱・乾燥・胃酸・消化酵素に強いエンテロトキシンという毒素をつくる。 ●食塩濃度16~18%でも増殖できる。 |
●90℃、60分の加熱にも耐える芽胞を形成する。 ●嘔吐型と下痢型の2種類あり、嘔吐型は食品中(主に米飯類・麺類)で増殖するときに毒素をつくる。 ●30℃前後でもっとも活発となり、室温放置された調理済食品中で急激に増殖する。 |
●嫌気性。(酸素の無いところで増殖する性質) ●熱にきわめて強い芽胞を形成する。 ●神経麻痺症状を引き起こす毒素をつくる。(毒素は80℃で20分、100℃で1~2分間の加熱で失活する) |
潜伏期間 | 30分~6時間 | 嘔吐型は30分~6時間 下痢型は8~16時間 |
8~36時間 |
症 状 | 激しい吐き気・嘔吐・下痢・腹痛など | 嘔吐型は激しい吐き気・嘔吐など。 下痢型は腹痛・下痢など |
特徴的な脱力感・めまいと吐き気・嘔吐・便秘など。(治療が遅れると呼吸困難などを引き起こして死に至る) |
対抗手段 | ●手荒れや傷(特に化膿しているもの)のある人は、食品や調理器具に直接触れない。 ●残った調理済食品の再加熱利用を避ける。 ●二次汚染の防止(特に手洗い・手指消毒の励行) |
●必要最小量の食品を調理し、調理後はすぐに喫食する。 ●残った調理済食品は、できるだけ早く食べきり、保存しない。 ●食品は低温保存、または温蔵する。(8℃以下または55℃以上) |
●新鮮な原材料(野菜・果物等)を選び、よく洗浄する。 ●容器が膨張している缶詰や真空パック食品は食べない。 ●1歳未満の乳児に蜂蜜などを与えない。(乳児ボツリヌス症の予防) |
ウイルス性食中毒について
厚生労働省の食中毒統計では、ウイルス性食中毒のうちほとんどが「ノロウイルス」によるものです。
ノロウイルスは食中毒と感染症の両方を引き起こすウイルスです。食中毒においても、ノロウイルスに汚染された食品だけでなく、感染したヒトの手指などを介して食品に付着する二次感染が増えています。

潜伏場所 | 人の腸内や二枚貝に生息。 |
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原因食品 | 二枚貝。調理従事者を介して二次汚染された食品など。 |
菌の特徴 | ●人の腸内のみで増殖する。 ●少量で感染し、発症率が高い。 ●菌の特徴長期間にわたる免疫が獲得できないため、繰り返し感染する。 ●食中毒事例では食品取扱者を介した汚染が原因となるケースが多い。 ●食品からだけでなく、ヒトからヒトに感染する場合も多い。 |
潜伏期間 | 24~48時間 |
症 状 | 吐き気・嘔吐・下痢・腹痛。発熱は一般的に軽度。 |
対抗手段 | ●感染の疑いのある人は食品の取り扱いに従事しない。 ●手指をよく洗浄・消毒し、二次汚染を防止する。 ●二枚貝の生食を避け、中心部まで十分に加熱する。(85~90℃、90秒間以上) ●嘔吐物にも多量のウイルスが含まれるため、その処理は適切に行う。 ●環境が汚染されたら、殺菌剤による清浄化が必要。 |
寄生虫による食中毒について
食品には、いろいろな種類の寄生虫が存在することがあり、中には人が食べると激しい痛みや嘔吐などの症状を起こすものもあります。
近年、寄生虫による食中毒が増加の傾向にあり、特に、アニサキスによる食中毒が著しく増加しています。

潜伏場所 | サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、イカなどの魚介類の内臓表面や筋肉内に寄生。 |
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原因食品 | 寄生した魚類等の生食やシメサバ等の未加熱加工品。 |
菌の特徴 | ●長さ2~3cmの半透明な白色糸状で、目視できる。 ●調理で使う程度の食酢での処理、塩漬けでは死なない。 |
潜伏期間 | ●数時間~十数時間(急性胃アニサキス症) ●十数時間~数日後(急性腸アニサキス症) |
症 状 | ●みぞおちの激しい痛み、悪心、嘔吐。(急性胃アニサキス症)激しい下腹部痛、腹膜炎症状。(急性腸アニサキス症) ●胃壁等に侵入しない場合でも、アニサキスが抗原となりアレルギー症状を示す場合がある。 |
対抗手段 | ●-20℃で24時間以上冷凍する。 ●70℃以上、または60℃の場合は1分間加熱する。 ●目視確認してアニサキスを除去する。 ●新鮮なうちに内臓を取り除く。 |