手指衛生について

●手指衛生と感染対策

『手』は人間にとって便利な道具です。しかし同時に、微生物にとっても伝播のための便利な媒介物となります。手はあらゆる場所で、様々なものに共通に使われるため、代表的な微生物の伝播経路となります。医療関連感染の多くも手を介して伝播されると言われています。
  • ●手指衛生の種類

    手指衛生の方法は目的に応じて「日常手洗い」、「衛生的手洗い」、「手術時手洗い」の3つに分類されます。

    手洗いの種類 定義 方法※ 目的
    日常
    手洗い
    食事の前やトイレの使用後など日常生活で行う手洗い
    • 石けんと流水
    汚れや有機物と一部の通過菌を除去する
    衛生的
    手洗い
    主に医療従事者が医療行為や介護の前後などに行う手洗い
    • 速乾性アルコール製剤
    • 石けんと流水
    • 抗菌石けんと流水
    汚れと通過菌のすべてを除去する
    手術時
    手洗い
    手術スタッフが手術前に消毒薬を使用して行う手洗い
    • 抗菌石けんと流水、その後持続活性のある速乾性アルコール製剤
    • 石けんと流水、その後持続活性のある速乾性アルコール製剤
    通過菌のすべてを除去するだけでなく、常在菌をできるだけ減らし、手術中の菌の増殖を抑制する
    ※石けん・・・抗菌剤を含まない、あるいは防腐剤としてのみ有効な低濃度の抗菌剤を含む洗浄剤(石けん)。
     抗菌石けん・・・抗菌剤を含む洗浄剤(石けん)。  
     

    ●手指衛生の実践方法

    医療従事者は、感染対策のために汚れと通過菌のすべてを除去することを目的とした「衛生的手洗い」が必要です。通過菌は食中毒や感染症の原因となるためです。 目に見える汚れがある場合は、石けんと流水で手を洗います。
    目に見える汚れがない場合は、速乾性アルコール製剤による手指消毒を行います。
    ただし目に見える汚れがない場合でも、速乾性アルコール製剤による殺菌効果は期待できないアルコール抵抗性の微生物は、石けんと流水による手洗いで物理的に取り除くことが推奨されます。

     

    ●手洗いの手順例

     

    ●手指消毒の手順例

    ●速乾性アルコール製剤の有用性

    これまで感染対策においては石けんと流水による手洗いが重要視されてきましたが、2002年に発行されたCDCの「医療現場における手指衛生のためのガイドライン」により、その考え方が大きく変化し、速乾性アルコール製剤による手指消毒が高く評価されるようになりました。

    その理由には以下のようなものがあります。
    • 石けんと流水による手洗いが有効とする研究の多くは30~60秒の手洗い評価に基づいているのに対し、実際の医療従事者の手洗いは7~10秒程度であるため、そのような研究結果は科学的根拠に乏しい
    • アルコールは手の付着菌を短時間で確実に減少させる
    • 手洗い設備が不要で、ベッドサイドなどどこでも容易に手指消毒できる
    • 保湿剤などの配合により手荒れの問題も改善されてきている

    現在、速乾性アルコール製剤には液体タイプとジェルタイプなどがあります。
    液体タイプは比較的さっぱりした使用感で指先までまんべんなく噴射できるというメリットがあり、ジェルタイプは比較的しっとりした使用感で液ダレしにくく床を汚しにくいというメリットがあります。

    液体タイプ ジェルタイプ
    使用感
    • 比較的さっぱりしている
    • 比較的しっとりしている
    使用量
    • 15秒以上擦り込める量
    • 15秒以上擦り込める量
    手荒れ
    • 手荒れに配慮した成分が配合されている
    • 手荒れに配慮した成分が配合されている
    メリット
    • 指先までまんべんなく噴射できる
    • 液だれしにくく床を汚しにくい
    使用時の注意点
    • 噴射液が手の平からこぼれ、床を汚してしまうことがある
    • 噴射の際、頭の位置が低い方(車イス、小児など)が近くにいると目などにかかる恐れがある
    • 使用間隔があくとノズルの先端付近で増粘剤が固形化し、次回使用時に消毒剤が異常方向に吐出する場合がある

    ●手指衛生のタイミング

    手指衛生遵守率の向上は、医療施設にとって重要な課題です。しかし、感染対策においては単に手洗いや手指消毒を行うだけではなく、必要なタイミングで確実な手指衛生を実践することが大切です。
    「医療における手指衛生に関するWHOガイドライン2009」では、患者ケアにおける手指衛生のポイントを5つのタイミングとして具体的に示しています。
    これらのタイミングを医療従事者に意識させるために、ポスターなどを医療施設内に掲示するだけでなく、実際に教育し、適切な場面で手指衛生しているかを調査して結果をフィードバックすることが大切です。
    また、業務の形態や導線を考慮した上で、適切なタイミングで手指消毒ができるように、必要な場所に設置することはもちろん、携帯用コードリールなどを活用して速乾性アルコール製剤を持ち歩くことも手指消毒の遵守率向上につながると考えられます。

    ●関連サイト

    Medical SARAYAでは手指衛生の5つのタイミングの目的と具体例などをわかりやすく解説しています。

    【医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン2002の勧告】

    手洗いと手指消毒のための指針

    • 手が目に見えて汚れている場合やタンパク性物質により汚染されている場合、あるいは血液やその他の体液で目に見えて汚染されている場合は、非抗菌石けんと流水、または抗菌石けんと流水のいずれかで手を洗う。
    • 食事の前やトイレの後は、石けんと流水、または抗菌石けんと流水で手を洗う。
    • 手が目に見えて汚れていない場合、A~H項に示す全ての臨床の場において、日常的に速乾性アルコール製剤を使用して手の汚染を除去する。
      (A)患者と直接接触する前に手の汚染を除去する。
      (B)中心静脈カテーテルの挿入する際に滅菌手袋を着用する前に手の汚染を除去する。
      (C)尿路カテーテル、末梢血管カテーテルあるいは外科的処置を必要としないその他の侵襲的器具を挿入する前に、手の汚染を除去する。
      (D)患者の健常皮膚に接触した後(例えば、脈をとったり血圧を測定した場合や、患者を持ち上げた場合など)は、手の汚染を除去する。
      (E)体液、分泌物、粘膜、創のある皮膚に接触した後や創処置の後は、手が目に見えて汚れていなくても手の汚染を除去する。
      (F)患者ケアの際に体の汚染部位から清潔部位に移る場合は手の汚染を除去する。
      (G)患者のすぐ近くにある物品(医療機器含む)に接触した後は、手の汚染を除去する。
      (H)手袋を外した後は、手の汚染を除去する。

    手指衛生手技

    • 速乾性アルコール製剤で手の汚染を除去する場合、製剤を片方の手の平に取り、手指表面全体を覆うように両手で手が乾くまで擦り込む。製剤の使用量はメーカーの指示に従う。
    • 石けんと流水で手を洗う場合、まず手を水でぬらし、メーカーの指示する量の製品を手にとり、手指表面全体を覆うように、最低でも15秒間両手を強くこすり合わせる。流水で手をすすぎ、使い捨てタオルで完全に乾かす。
      使用したタオルで蛇口を閉める。

    手指衛生薬剤

    • 使いかけのディスペンサーに手洗い剤を継ぎ足ししない。このディスペンサーへの継ぎ足し行為は手洗い剤の微生物汚染につながる。

    【厚生労働省通知「医療機関などにおける院内感染対策について」 (平成23年6月17日医政指発0617第1号)】(抜粋)

    手指衛生

    • 手洗い及び手指消毒のための設備・備品などを整備するとともに、患者処置の前後には必ず手指衛生を行うこと。
    • 速乾性擦式消毒薬(アルコール製剤など)による手指衛生を実施していても、アルコールに抵抗性のある微生物も存在するため、必要に応じて水道水と石けんによる手洗いを実施すること。
    • 手術時手洗いの方法としては、持続殺菌効果のある速乾性擦式消毒薬(アルコール製剤など)による消毒又は手術時手洗い用の外用消毒薬(クロルヘキシジン・スクラブ製剤、ポピドンヨード・スクラブ剤など)と水道水による手洗いを基本とし、水道水を使用した手術時手洗いにおいても、最後にアルコール製剤などによる擦式消毒を併用することが望ましいこと。

    ●サラヤ商品の選び方

    サラヤでは、それぞれの方に合った商品をご提供できるように、様々な種類の手洗い剤や速乾性手指消毒剤、その他感染対策商品をご用意しています。お好みに合わせた薬剤をお選びください。

    ●参考