医療器具の再生について

医療器具洗浄剤商品一覧はこちら

●医療器具の再生と感染対策

医療器具の再生処理(洗浄・消毒・滅菌)は感染対策において非常に重要であり、確実に実施することで患者や医療従事者の安全を守ることにつながります。
患者に使用した医療器具の処理は、その器具の使用目的によって決定されるべきであり、使用されていた患者の疾患によって処理されるべきではありません。使用目的に応じて、洗浄・消毒・滅菌の処理が決定されます。その目安として、スポルディングの分類があります。

表1.スポルディングの分類

分類 定義 処置 対象の医療器具(例)
クリティカル 通常無菌の組織や血管に挿入されるもの

滅菌

  • 滅菌済み製品を購入
  • 高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)
  • 酸化エチレンガス(EOG)滅菌
  • 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌
  • 過酸化水素ガス低温滅菌
  • 化学的滅菌(過酢酸10分、グルタラール3~6時間)
  • 手術器具
  • 注射器、穿刺、縫合などの観血的な処置に使用される器具
  • インプラント

など

セミクリティカル 損傷のない粘膜および創のある皮膚に接触するもの

高水準消毒

  • 過酢酸(5分)
  • フタラール(5分以上)
  • グルタラール(30分~1時間)
  • ウォッシャーディスインフェクターを用いた熱水消毒 (80℃・10分)
  • 人工呼吸器
  • 麻酔器回路
  • 軟性内視鏡
  • 膀胱鏡

など

中水準消毒

  • 次亜塩素酸ナトリウム
  • アルコール
  • 咽頭鏡ブレード
  • バイトブロック
  • ネブライザー
  • 哺乳瓶
  • 乳首

など

ノンクリティカル 損傷のない皮膚と接触するもの

洗浄/(低水準消毒)

  • 両面界面活性剤
  • ベンザルコニウム塩化物
  • クロルヘキシジングルコン酸塩
  • 血圧計
  • 酸素マスク
  • 膿盆
  • ガーグルベースン
  • 吸引瓶
  • 薬杯
  • 便器
  • 尿器

など

※E.H.Spauldingの分類を一部改変

●医療器具の再生処理(洗浄・消毒・滅菌)

医療器具の消毒・滅菌処理を行う前には、あらかじめ十分な洗浄を行うことが重要です。その後、スポルディングの分類に従って最終処理方法を決定します。なお、速やかに洗浄することができない場合は、乾燥防止成分の入った予備洗浄剤を使用することにより、汚れの乾燥と固着を防ぐことが可能です。
器具に付着した汚れが乾燥して固着すると洗浄不良になりやすく、さらに器具を長時間にわたり血液や体液などと接触させておくことはサビの原因にもなります。また、使用した器具を洗浄前に消毒薬に浸漬する一次消毒は、消毒薬の効果を減弱させるだけでなく、血液などのタンパク質を変性させ、汚れを固着させます。消毒薬により変性・固着したタンパク質は洗浄しても残留しやすいため、その後の消毒・滅菌不良の原因となります。

器具の再生処理を行う際は、感染の危険性があるため個人防護具(手袋、マスク、ガウン、キャップ、ゴーグルなど)の着用が必要です。

洗浄

洗浄とは、汚れや有機物(血液や体液など)を医療器具表面から剥離させて洗浄液中に分散・溶解させる処理方法です。一般的に対象物に血液などの有機物が付着していると消毒薬の効果が減弱したり、滅菌不良の原因になります。そのため、消毒や滅菌前にはまず十分な洗浄が必要です。

洗浄の種類

洗浄は用手洗浄(浸漬洗浄を含む)、超音波洗浄、WDの3種類に大別されます。医療施設の環境や洗浄対象物の特性を考慮して洗浄方法を選択します。

表2.洗浄の種類と特徴

洗浄の種類 方法 メリット デメリット サラヤ対象商品例
用手洗浄
(浸漬洗浄)
  • 用手洗浄は汚染された器具をブラシやスポンジを用いてブラッシングすることで物理的に汚れを取り除く
  • 浸漬洗浄は洗浄液に漬け込むことで汚れを除去する
  • 器具の量が少ない場合や微細な器具の洗浄に適している
  • 鋭利な器具による切創の危険性がある
  • 作業者によって技術レベルが異なる
超音波洗浄
  • 超音波エネルギーにより発生する無数の真空状態の泡(キャビテーション)が器具に付着した汚染物を剥ぎ取る
  • 器具の入り組んだ部分にも効果がおよぶ
  • 繊細な器具の洗浄に適している
  • 膿盆など広い面積を有するものは、中心部にキャビテーション効果がおよび難い
WD
(ウォッシャーディスインフェクター)
  • 回転するプロペラから勢い良く吐出した洗浄水のシャワーリング効果により器具に付着した汚染物を分解・除去する
  • 予備洗浄→すすぎ→本洗浄→すすぎ→熱水処理→乾燥の工程を自動で行える
  • 非常に高価

洗浄剤の種類

洗浄剤を選定する際は、それぞれの特徴、材質への影響、汚染物質の種類など十分考慮する必要があります。

表3.洗浄剤の種類と特徴

洗浄の種類 メリット デメリット サラヤ対象商品例
酸性洗浄剤
  • 無機物(サビ、水垢、スケール、酸化皮膜など)の洗浄に適している
  • 金属に対する腐食性が強い
  • 皮膚への影響が強い
中性洗浄剤
  • 器具の材質への影響が比較的少ない
  • 皮膚への影響が比較的少ない
  • 環境への影響が比較的少ない
  • アルカリ性洗浄剤より洗浄力が劣る
アルカリ性洗浄剤
  • 洗浄力が優れている
  • 材質への影響があるため、注意が必要
  • 皮膚への影響が強い
  • 用手洗浄に不向き

効果的な浸漬・用手洗浄の方法

高価なWDがなくても、適切な酵素系浸漬洗浄剤で確実に洗浄すれば、優れた洗浄効果が期待できます。
しかし、酵素系浸漬洗浄剤の洗浄力には、酵素の働きが大きく関与しているため、製品や使用方法により効果に差が出ます。

酵素系浸漬洗剤を使用する際は以下の2点に注意が必要です。

  1. 温度管理
    酵素はタンパク質であり、一般的に40~50℃で最も活発に作用します。その一方、温度が低すぎると作用が弱くなり、反対に高すぎるとタンパク質が変性して作用しなくなります。そのため、恒温槽などを用いて40℃程度に温度管理をすることが必要です。恒温槽を用いない場合は、洗浄槽にふたをすることが温度を保つのに有効です。やむを得ず低温で使用する場合は、浸漬時間を延長することで洗浄効果が期待できます。
  2. 酵素活性と安定性
    酵素系浸漬洗浄剤は各社から販売されていますが、その配合量や酵素活性には大きな差があります。実際に使用した場合の洗浄力を見極めることが重要です。また、使用濃度に調整した後は酵素が徐々に失活するため、少なくとも1日1回は交換が必要です。

消毒・滅菌

消毒とは、生存する微生物の数を減らすために用いられる処理方法で、必ずしも微生物をすべて殺滅したり除去するものではありません。滅菌は、すべての微生物を死滅させる処理方法です。

消毒の種類

消毒には、消毒薬を用いる化学的消毒法と、熱水(80℃・10分など)を用いる物理的消毒法があります。
消毒薬はそれぞれの特徴、使用目的、消毒対象物への影響、安全面など十分考慮して使用する必要があります。熱水を用いた消毒法は効果が確実、かつ経済的で、消毒薬のように残留毒性に配慮する必要がない安全な方法です。熱に耐えられるものの消毒には熱水消毒のような物理的な方法が第一選択となります。

滅菌の種類

滅菌には、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)、酸化エチレンガス(EOG)滅菌、過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌、化学的滅菌などがあります。高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)は安全性や操作性が高く、残留毒性がありません。また、短時間で芽胞に対しても効果があり、経済的で、滅菌条件に耐えられる器具であれば最も安全で確実な方法です。

表4.消毒および滅菌の水準分類と主な微生物に対する効果

水準
分類
定義 処理 一般細菌 真菌 結核菌 ウイルス
(エンベローブ)

滅菌 すべての微生物を死滅させる EOG滅菌
オートクレープ
ガスプラズマ滅菌
過酸化水素ガス滅菌
化学的滅菌(過酢酸10分、グルタラール3~6時間)

※2
消毒 高水準 多量の芽胞を除くすべての微生物を死滅させる 過酢酸(5分)
グルタラール(30分~1時間)
フタラール(5分以上)
熱水消毒(80℃・10分)

※2
中水準 芽胞を除く細菌、ほとんどのウイルスや真菌を死滅させる 次亜塩素酸ナトリウム
アルコール
ポピドンヨード
×
低水準 ほとんどの細菌、真菌、一部のウイルスを死滅させるが、結核菌・芽胞は死滅させない 第四級アンモニウム塩
クロルヘキシジングルコン酸塩
両性界面活性剤
× × ×
○:有効 △:一部有効または効果が劣る ×無効

※1 低水準消毒薬は、グラム陰性菌の一般細菌に対する効果で、常用濃度、短時間または規定時間の接触で抵抗性を示す菌が報告されている。
※2 グルタラールは、結核菌などの抗酸菌に対する効果で、常用濃度、短時間または規定時間の接触で抵抗性を示す菌が報告されている。

【医療施設における消毒と滅菌のためのCDCガイドライン2008の勧告】

職業上の健康

  • 呼吸器、皮膚、眼、鼻、口の粘膜が感染性病原体や化学物質で汚染されないために、医療従事者が適切な個人防護具を着用する。

患者ケア器具の洗浄

  • 高水準消毒または滅菌処理の前に、水と洗浄剤または水と酵素系洗浄剤で患者ケア器具を細心の注意を払って洗浄する。
  • 目に見える有機物の残り(血液や組織の残りなど)と無機塩は、洗浄して取り除く。目に見える有機物および無機塩を取り除くことができる洗浄剤を使用する。
  • 器具の汚れが乾燥しないように、使用後の器具は速やかに洗浄する。器具の汚れが乾燥したり、固着すると、除去するのが困難になり、消毒または滅菌処理の有効性が低下または無効になる。
  • 洗浄剤や酵素系洗浄剤は、器具に使われている金属や他の材質に適合するように選択する。

滅菌、高水準消毒、低水準消毒

  • 通常無菌の組織や血管に挿入されるクリティカルな内科用、手術用の器具は患者に使用する前に滅菌する。
  • 損傷のない粘膜および創のある皮膚に接触するセミクリティカルな患者ケア器具(消化器内視鏡、気管内チューブ、麻酔のための呼吸回路など)には、少なくとも高水準消毒を行う。
  • 損傷のない皮膚と接触するノンクリティカルな患者ケア区域の環境表面(ベッド柵、ベッドテーブルなど)および医療器具(血圧計カフなど)には、低水準消毒を行う。

【厚生労働省通知「医療機関などにおける院内感染対策について」(平成23年6月17日医政指発0617第1号)】(抜粋)

医療機器の洗浄、消毒、滅菌

  • 医療機器を安全に管理し、適切な洗浄、消毒又は滅菌を行うとともに、消毒薬や滅菌用ガスが生体に有害な影響を与えないよう十分に配慮すること。
  • 使用済みの医療機器は、消毒、滅菌に先立ち、洗浄を十分行うことが必要であるが、その方法としては、現場での一次洗浄は極力行わずに、可能な限り中央部門で一括して十分な洗浄を行うこと。

●参考